2017年06月20日掲載
今回は、視覚障がいの全盲でありながら旅写心家(たびしゃしんか)として活動されている大平啓朗さんへのインタビューです。
47都道府県を一人で旅をしたときのエピソードとあわせ、新たな挑戦として世界初となる手話、字幕、音声ガイド付きのミュージックビデオ(以下、MV)を制作したことについて伺っています。
ぜひ、ご覧ください!
大平さんってこんな人
- 出身は北海道
- 視覚障がい(全盲で光も感じない)
- 大学院生(24歳)のときにメタノール中毒による視神経萎縮で失明
- 趣味は旅をしながらの写心撮影
障がいについて知ってもらうための一人旅
聞き手: 最初に、趣味が旅をしながらの写心撮影とのことですが、「写心撮影」で具体的にはどのような撮影ですか?それに、全盲の大平さんが写心を撮るのは大変なことだと思います。実際、どのように撮影されているのですか?
大平さん: 実は、写真撮影は小学生の頃からの、失明する前からの趣味だったんです。失明したからといって、あきらめるという選択肢が浮かばなかったんです。私が撮影した写心を他の人たちと楽しめるということが大事なんです。だから、視覚が使えなくても、それ以外の4感を使ってシャッターを切ることで楽しんでいます!
聞き手: さて、続いて旅のお話についておうかがいします。大平さんは、なぜ一人で「47都道府県の旅」をしようと思ったのですか?
大平さん:
全盲になってから挑戦したい事は何かを考えてみました。いろいろ考えてみた結果、それは私の好きな「旅」だったんです。
そして、旅に限らず普段生活している中で困ることは、障がい者本人というより、どう接していいかがわからない健常者側ということがよくありますね。それは、障がいについて知らないだけなので、「そうだ、見てもらって知ってもらえばいいんだ」と考え、47都道府県を一人で旅して出会いがあれば伝えようと思いました。
聞き手: 視覚障がいがあったら、移動や宿泊は難しいと思います。どのように行動したのですか?
大平さん:
まずは、全盲の僕を見てもらうため、そして友達も作りたかったので、お金をかけてホテルなどに泊まらず、人の家だけに泊まるというルールを決めました。
そうすると当然、泊まるところがなくて困るわけです。そこで知人の紹介やネットで趣味の合いそうな人を探しました。
宮崎県でのできごとですが、以前に紹介してもらったことのある障がい者関係の団体を訪ねました。団体の方がホテルを探してくれるという話になりましたが、宿泊にはお金は使わないルールと旅の目的を説明してみました。するとそこの事務局長が旅好きで、ウチにおいでよと言ってくれました。
そうですね。
私の趣旨に共感してくれたのです!
移動ではヒッチハイクに挑戦しましたが、成功することはまったくありませんでした…。
それと結果的に、この時の旅では野宿もすることなく終えることができました。
聞き手: 全盲の人が一人で旅を続けたということ、これはすごいことですよね。達成できた理由は、どういったことだと思いますか?
大平さん:
それは、旅を続けていくごとに、人との繋がりがどんどんできたおかげだと思います。
例えば、宮崎では急遽、私の話を聞きたいということで講演会を開いてくださり、そのころからテレビなどの取材依頼が入るようになりました。そうしたきっかけから、新聞社が来てくれたり、写真好きな人達が集まったりと、次から次へとゲームのように「パス」がつながるようになりました。
「長崎県の友達、ぜひ、おーちゃんに泊まりにきてもらいたいって」とかです。私も旅の目的をしっかり説明できるようになったのも大きいと思います。
最初は苦労もしましたけれど、信じられないほどとても楽しい旅でした。
そして、旅の途中に書いた歌詞でまずは曲を作り、それが「MV」になりました。
世界初のユニバーサルデザインMV誕生!
聞き手:
なるほど。さまざまな苦労があり、人とのつながりがあっての旅だったのですね。
それでは、次にMVについてお聞かせいただけないでしょうか。
大平さん:
誰もが一緒に楽しめるように私と仲間が立ち上げた「ユニバーサルMVを作る会」で、手話や字幕、音声ガイドを付けたMVを制作しました。
タイトルは「プリチュー」と言い、私が脚本・監督を担当しています。47都道府県を旅したときの写心、動画、録音した音声などを使っています。編集や撮影のサポートは見える方に手伝ってもらいました。
聞き手: なぜこのようなMVを作ろうと思ったのですか?
大平さん:
私が失明した直後に、MVの映像がどういう内容なのかを知りたい、そう思ったのです。曲に合わせて作った映像の内容を知れたのなら、「もっともっと曲の良さがわかるかもしれない」と思いました。「おいてきぼり」にされているという悔しい気持ちもありましたね。見えなくても、やっぱりみんなと同じようにどういう映像が映っているのか知りたいじゃないですか。
いざ探してみても、このご時世に音声ガイド付きのMVはありませんでした。そこで、自分たちで作ることにしたんです。
聞き手: 手話や字幕、音声ガイドを自分たちで付けることって、簡単ではないですよね。その点はどうされたのですか?
大平さん:
そうですね。
私は函館の「北海道ユニバーサル上映映画祭」という団体で元々、視覚障がいがあっても映画を楽しめるように、情景を説明する音声ガイドを作っていたんです。ですが、今回のMVでは様々な団体と協力し作り上げようと考えました。そこで、以前から知り合いだった東京にあるバリアフリー映画鑑賞推進団体「シティ・ライツ」の代表である平塚さんに声をかけさせていただいたのです。音声ガイドは、シティ・ライツのメンバーと私の知人で協力して制作することで、より広い意見を反映させることができました。
また、手話や字幕については、私が筑波大学で知り合った聴覚障がいの人に協力してもらいました。私が考えた手話が通じるかどうか、そして同じ意味の違う手話表現があればそれを教えてもらい、歌のイメージと近づけました。
さらに、手話と字幕、音声ガイドの3つが付いているMVはあるのかと平塚さんに聞いてみると、「無い」との答えが返ってきたので、日本初かどうかを尋ねると、日本初どころか、世界初になるのでは、と言っていただきました。