毎年9月は「障害者雇用支援月間」です。この期間には、障がい者が働くことに関するさまざまな啓発活動が展開されています。事業主や働いている人々を対象に、障がい者雇用の理解を深めるとともに、障がい者の職業的自立を支援するため、厚生労働省と独立行政法人高齢・障がい・求職者雇用支援機構によって定められました。
厚生労働省が公表している「障害者雇用状況の集計結果」(今年はコロナ禍の影響もあり遅れることが予想されています)によると、2019年12月25日の公表結果では働く障がい者数、雇用する企業の数ともに過去最多を更新しています。
しかし「働きたい」と思っても「通勤できるか」「バリアフリー環境が整っているか」と不安を感じている障がい者も少なくありません。そうした人たちが安心して働くことができるよう設立された子会社が「特例子会社」です。
今回はこの「特例子会社」についてご紹介します。
特例子会社とは?
民間企業などは、「障害者の雇用の促進等に関する法律」によって、従業員数に応じた一定割合の障がい者を雇用することが義務付けられています。
特例子会社とは、障がい者雇用の促進と定着を図ることを目的に設立され、厚生労働大臣から認定を受けた会社のことです。また、障がい特性に合わせた環境が整っているところが多く、比較的障がいの程度に関係なく働きやすくなっています。
特例子会社で雇用されている障がい者は、親会社に雇用されているものとして実雇用率の計算に算入することができます。2002年から「関係会社特例」(グループ適用制度)が導入されとこともあり特例子会社の設立件数が年々増えている状況です。
「障害者の雇用の促進等に関する法律」
1960年に制定されたこの法律は、身体障がい者又は知的障がい者、精神障がい者の雇用義務等に基づく雇用の促進等のための措置、職業リハビリテーションの措置その他障がい者がその能力に適合する職業に就くこと等を通じてその職業生活において自立することを促進するための措置を総合的に講じ、もつて障がい者の職業の安定を図ることを目的としています。
「特例子会社」に認定されるための要件
障がい者の雇用者数を親会社の法定雇用率に算入できる特例子会社には、一定の要件があり、通常の「子会社」の意思決定機関の支配といった要件の他に、障がい者の雇用に関わる以下の特有の条件を満たしている必要があります。
- 身体、知的または精神障がい者を5人以上雇用し、かつ全常用労働者中の障がい者が、20%以上であること
- 雇用される障がい者数のうち、知的障がい者、精神障がい者及び重度身体障がい者の合計数30%以上であること
- 施設、設備の改善、指導員の配置など、障がい者雇用への特別な配慮をしていること
特例子会社設立のメリット
特例子会社の設立にあたって事業主は、バリアフリー対応などの環境整備に助成金を受けることができるほか、障がい者にとっても比較的安定した雇用が見込めるなど以下のようなメリットがあるとされています。
事業主にとって
- 親会社と異なる労働条件で障がい者の雇用体制を設計できる
- 障がい者の複数人が同じ職場で働いているため、孤立感を互いに補い合うことで職場定着率の向上が期待できる
- 障がい特性に配慮した仕事の確保や職場環境の整備が容易となり、障がい者の能力を十分引き出し生産性の向上が期待できる
- 社会的責任の観点から社会のイメ―ジの向上につながる
障がい者にとって
- 障がい者の就労機会の拡大につながる
- 定期通院が不可欠な障がいであっても柔軟な働き方などができる
- それぞれの障がいの特性に配慮された職場環境の中で、自身の能力を発揮する機会が確保される
特例子会社の現状
「令和元年度障害者雇用状況の集計結果」によると、特例子会社は517社あり、36,774.5名(注)の障がい者が働いています(2019年6月1日現在)。
また、2021年3月末までに民間企業の法定雇用率は2.3%に引き上げられることになっています。そのため、特例子会社のような集合配置型で多様な特性の障がい者雇用を進める企業が増えています。
内訳 | 人数 |
---|---|
知的障がい者 | 18,885.5人 |
身体障がい者 | 11,939.5人 |
精神障がい者 | 5,949.5人 |
現在、全国には517社の「特例子会社」があると公表されていて、身体障がい・知的障がい・精神障がいなど、さまざな障がいのある人たちが働いています。なかでも、これまで企業で働くことが困難とされていた知的障がい者や重度の身体障がい者の就労拡大への貢献度は非常に高いのではないかと思います。
今後、法定雇用率の引き上げや除外率の撤廃などで特例子会社の環境も少しずつ変化していくかもしれません。また、コロナ禍の状況で障がい者の採用に新たな変化も生まれてきています。テレワークや在宅勤務、時差通勤といったことが広く社会に容認されるようになってきたこともあり、就労場所や労務管理のハードルが低くなり、企業における障がい者の積極的な採用姿勢も見えてきています。
特例子会社においても、蓄積されてきたノウハウを活かして、親会社や関係会社における障がい者雇用が広がっていくと真の共生社会が見えてきそうですね。