みなさんは「クワイエットアワー」という言葉をご存じでしょうか。感覚過敏のある人に配慮した取り組みで、昨今、さまざまな多くの人が集まる場所で導入されはじめています。
今回は、株式会社ヤマダホールディングス サステナビリティ推進室SDGs推進部 近藤部長と小井土さんに、クワイエットアワー実施店舗であるグループ傘下の家電量販店 株式会社ヤマダデンキ(以下、ヤマダデンキ)「テックランド相模原店」で、感覚過敏の編集部員がお話しを伺って来ました。ぜひ、ご覧ください。
クワイエットアワーとは
「Quiet(クワイエット)」には「静かな」という意味以外にも「穏やかな・平穏な」という意味があります。感覚過敏の人が外出するとき、人が多く集まる場所や商業施設内でのBGMやアナウンス、照明などで感じるストレスを軽減させるために設けられた時間のこと。
主にADHD(注1)、ASD(注2)などの発達障がい、感覚過敏、PTSD、パニック障がいなどの人は、外部からの刺激に過敏で過剰に反応してしまうことがあります。そのため、音量や光を消す、もしくは弱めることにより、安心して過ごせると「クワイエットアワー」は、注目されはじめています。
(注1)ADHDとは発達障がいの一つで集中力がつづかない、じっとしていることが難しいなどの多動性・衝動性行動や、忘れ物やケアレスミスがおこる不注意が特徴です。注意欠陥・多動性障がいとも言われます。
(注2)ASDも発達障がいの一つでコミュニケーション・対人関係の困難さや強い興味やこだわりの特性を有するのが特徴です。また、まぶしい所や大きな音が苦手とも言われています。
テックランド相模原店での導入経緯
最初に相模原青年会議所からクワイエットアワーの説明と実施協力依頼があったことがきっかけでした。しかし、家電量販店と言えば賑やかさや活気も売りの一つです。
クワイエットアワーとは正反対の店内アナウンスや電化製品から出る音量が大きいこと、大型テレビやシーリングライトなどの電源をオンにした状態が通常の営業形態でした。担当内では「果たしてアピールポイントになるのか?」「どうやってお客様へ周知していくのか?」「障がいのないお客様には失礼にあたらないか?」などの意見も出ました。
クワイエットアワーを実施することで、販売力が下がるようなら本末転倒となるため、それだけは避けたいとの思いもありました。
クワイエットアワー実施への決断
そこでクワイエットアワーを実施するために取った方法は、販売員に感覚過敏がある人を知ってもらうことでした。
理解促進することでお客様へのサービス向上に役立てると考えたからです。販売員は以下の配慮した接客を心がけています。
- 世の中には「感覚過敏」という目には見えない悩みがある人がいること。
- 店内の音量や明るさを調整することで、感覚過敏の人は落ち着いて商品を吟味できること。
- クワイエットアワーの時間は積極的な声掛けをすることはなく、必要最低限で配慮を持った接客をすること。
さらに、映像資料を見てもらうことで感覚過敏への理解促進を得ようとしました。
実施時間を「毎月第2・第4火曜日の10時から11時」の時間だけ限定的実施をすることで、通常の営業時間とのバランスを考えれば影響は小さいという判断のもとで、2023年5月からスタートとなりました。
ヤマダデンキが考える「お客様への配慮」と今後の展望
近藤部長は「外見からは解らないが、感覚過敏で他のお店には行けないお客様がいらっしゃるかもしれません。」と言います。クワイエットアワーは、今後2024年2月から神奈川県内の18店舗(相模原店含め)に展開する計画とのこと。(LABIという大型店舗と他のテナントと共同運営する店は対象外)
また、お客様への配慮として、849店舗の男性トイレには、サニタリーボックスを設置しています(2022年12月時点)。なぜなら、高齢化によりオムツを使用する人が増えたことと、LGBTQの人にも配慮したからです。なお、今後の売り場で働く販売員の高齢化も考慮の上での施策だと言います。
ASD、ADHDの編集部員からのコメント
家電量販店は好きで良く行くのですが、今回お伺いさせていただいた静かな店内というのは、非常に新鮮でした。
このような環境下だったら、落ち着いてゆっくりと買い物ができると感じました。
また、お話の中で「クワイエットアワーについては、社内でも頻繁にフィードバックを受け常に改善している」と伺ったのがとても印象的でした。
今後、実施店舗も増えるということで、大変楽しみにしています。
ADHD・パニック障がいの編集部員からのコメント
まず店内に入った瞬間に感動しました。
いつもはうるさくて、店舗によってはそのまま入店できずに引き返すこともあるので、家電量販店なのにつらく感じないことが驚きでした。
遮音イヤホンをつけずに商品を選べるので、レジにいる販売員に質問もできますし、安心してゆっくり選べるなとも思いました。
普段、感覚のことを人に伝えることは難しく声をあげづらいのですが、販売員が感覚過敏を知ってくれているということが嬉しかったです。
今後、神奈川県内の店舗に導入する予定とのことですので、ぜひ買い物をしに行きたいです。
店舗情報
店舗名:ヤマダデンキ テックランド 相模原店
所在地:〒252-0231 神奈川県相模原市中央区相模原8-11-1
TEL:042-786-8211
営業時間:10時から20時(注3)
(注3)クワイエットアワーは、毎月第2・第4火曜日の10時から11時実施
いかがだったでしょうか。賑やかなイメージのある家電量販店とクワイエットアワーは、真逆な取り組みと言えるかもしれません。
取材時、お客様が数名いた店内フロアは編集部員同士の会話が目立つ程の静かさでした。
展示中のテレビは半分以上はオフ状態、シーリングライトやパソコンも全て消えており、冬は必需家電である暖房器具も暖房家電エリアもOFFモードでした。
11時になり、店内にBGMが流れ出すと、そこはいつもの見慣れたヤマダデンキです。取材を終えて、店内を見ると動線も広く取ってあることに気づきました。
車いすユーザなどに配慮して主動線は可能な限り広くするようにしているそうです。クワイエットアワーやサニタリーボックス設置も含めて、来店者への優しい配慮にあらためて感心しました。
そう遠くない将来には、家電量販店のイメージが少し変わるかもしれません。
家電量販店大手のヤマダデンキの挑戦には、とても大きな意味があるとともに他の業種にも広がって欲しいと強く感じました。