2024年06月11日掲載
みなさんは、視覚に障がいのある人がどのような仕事をしているかご存じですか?
マッサージ・はり・灸・あん摩などしか思い浮かばない人もいるかもしれません…。特に、重度の視覚障がいのある人の職域は選択肢が少ないというのが現状です。
そんな中、資生堂ジャパン株式会社は「視覚障がい者職域拡大プロジェクト」を発足しました。そして現在、5人の視覚障がい者が新しい職域「通信営業」の業務に従事しています。
プロジェクト発起人の石川さゆりさんと、実際に通信営業に従事している菅谷久美子さんにお話を伺いました。ぜひご覧ください。
資生堂「視覚障がい者職域拡大プロジェクト」を深掘り!
聞き手:プロジェクトはどのようにして生まれたのでしょうか?
石川さん:
きっかけは2019年に、ビューティーイノベーションコンテストという、企業使命を体現するイノベーションを事業所ごとに提案し合う資生堂グループ会社のグローバルコンテストが開催されたことです。
そこで2位を獲得したことで、このプロジェクトがスタートしました。視覚障がい者が抱える悩みに対し、私たちが企業の中にいることで、できることがあるのではと感じ、コンテストでこのプロジェクトを提案したのです。そして、通信営業という職域に拡大の可能性を見出しました。
聞き手:
通信営業とはどのような仕事なのでしょうか?
また、どうして通信営業を選んだのですか?
石川さん:
通信営業とは、簡単に言うと訪店をしないスタイルの営業です。直接対面することなく、営業活動をします。
例えば、商品紹介や施策案内は、訪店営業では一緒にカタログを見ながら提案しますが、通信営業では電話や、動画を使ってのメール配信で行います。
そのため、傾聴力が高く、言葉でのコミュニケーションに長けている視覚障がい者の強みを活かせるのではないかと考えました。
聞き手:実際の業務に反映するまで、どのようなことをされましたか?
石川さん:最初に、私自身が営業担当の業務を行い、実際にできるかを検証していきました。
ソフト面では、配属先部門に入社前と後の計2回の啓発セミナーを行い、視覚障がい者にも多様な見え方があることや、どういったサポートが必要かを伝えました。また、社内全体に取り組みをPRすることで、全体的な啓発も図りました。
2021年から通信営業担当の採用を行い、定着に向けた支援を行いながら、社外にも多様な仕事で活躍できることを発信していきました。
プロジェクトは現在、全てのフェーズを完遂し、5名が通信営業に従事しております。
聞き手: どのようにして検証されたのでしょうか?
石川さん:
業務を細かくタスクごとに分解し、業務プロセスとして落としこみました。
これを実際誰がやるのか、サポートをどうしていくのかなどを一つひとつ可視化していったのです。そうすることで、配属先の人たちも一緒に働くイメージが持てるようになったと思います。
もう一つ、重要なこととして、営業のシステムがスクリーンリーダーで対応可能か、システム部門(担当者)と私で、全て洗い出して検証をしました。
対応が難しいものに関しては、システムの開発者にテキストの読み上げを可能に改善してもらうなど、ハード面の改善も行いました。
聞き手: 視覚障がいのある新入社員で、営業経験がある方は少ないかと思います。研修にも何か特別な工夫をされたのでしょうか?
石川さん:
通常、中途社員は2日間会社概要の説明を受け、それぞれの部門に配属されます。しかし、通信営業の場合は、配属前にもう少し研修を受けてもらいます。
営業についての基礎知識や、商品や美容に関する知識を身につけたり、スクリーンリーダーでの営業システムの操作も一通りできるようにカリキュラムを作成しました。
通信営業について深掘り!
聞き手: 普段はどのように業務を行っているのでしょうか?
菅谷さん:
パソコンは音声ソフトを使い、白黒を反転してコントラストを上げたり、拡大鏡を使って倍率を自分の見やすい大きさに変更するなど工夫しています。
私は、特に色が判別しにくい特性があるので、色が分からない時は周りの方にサポートをしてもらうこともあります。
入社して約1年半になりますが、今まさに模索をしながらやっているところです。
聞き手: 実際に働いていて、どのようなところにやりがいを感じますか?
菅谷さん:
周りの応援もあり、前職の理学療法士としての知識を今の通信営業にも活かせているところです。月に1回、私なりの健康アドバイスなどをまとめた「菅谷通信」というお便りを発行しています。
訪店しない営業ではありますが、寄り添いたいという思いをお伝えできるように、しっかりコミュニケーションを取りたいという気持ちがあります。
今後も発行を続け、信頼感につなげていきたいです。
石川さん:
菅谷さんもそうですが、皆さん本当に電話での応対が丁寧で、得意先からも評価をいただいていると聞いています。
視覚に障がいがあっても力を発揮できるような、改善や工夫をしながら業務に従事
してくださっていて、私もよかったなと思います。
菅谷さん:
他にも、お店様が「菅谷通信の発行、次も待ってるね」や「ファイリングしてバックナンバーを取ってるよ」など言ってくださるようになったこともやりがいですね。
電話も、最初はそっけないところもありましたが、徐々に信頼してくださるようになったり。直接行けなくても、本当に足を運んでいるのと同じ感覚で思ってくださるようになったのが嬉しいなと思います。
通信営業をモデルとして描く未来
石川さん:
目指す姿は、成功事例を発信することで、視覚障がい者が企業内の新しい職域で活躍できることを日本中に知らせ、視覚障がい者がチャレンジしていく場をもっと増やすことです。
この通信営業という職域で、視覚障がいのある社員が、いきいきと会社に貢献できるよう、今後も環境整備やサポート体制の仕組み化を進めていきたいです。
菅谷さん: この活動を社内外に関わらず、幅広く応援していただけるように、私たち通信営業も頑張りたいなと思っています。