2016年03月15日掲載
無農薬栽培や有機栽培という言葉を聞くようになってから久しいのですが、「自然栽培」という言葉を最近聞くようになりました。
無農薬栽培や有機栽培が農薬の量や肥料の種類を指しているのに対して、自然栽培は「土本来の力を引き出す農法」のことです。
TVに大きく取り上げられ話題となった「奇跡のリンゴ」で知られる木村秋則さんは、この農法の立役者ではないでしょうか。
自然栽培にはいまのところ特定の定義や国の基準はありませんが、有機栽培と同じく化学肥料や農薬を一切使わないということに加えて、動物性有機肥料や堆肥も一切使わないということを実践しています。
つまり、農地に植物が生育するための養分を人工的に持ち込むことなく、本来土が持っている力を太陽や水や空気の力を借りて、生かしながら作物を栽培していきます。
「なんだ、何もしないでほったらかしにしとくだけなんだ」と思われそうですが、自然の恵みを土に生かすためには適切できめ細かい管理が必要となりますので、肥料や農薬を使うよりも手間のかかる農法だと言われています。
その農法に取り組んでいる障がい者施設が企業と連携して、日本中においしい作物を届ける「自然栽培パーティ」が発足しています。今回はこの取り組みについて紹介します。
始まりは愛媛・松山だった
障がいのある方々が働く場所はさまざまです。その中に、通常の事業所に雇用されることが困難な障がい者に就労の機会を提供し、その他の活動の機会を提供することを通じて、能力や知識を向上するために必要な訓練を行う就労継続支援事業所があります。
利用者と雇用契約を結ぶ「A型事業所」と雇用契約を結ばない「B型事業所」の2種類です。
その一つに、愛媛県の佐伯康人さん率いる株式会社パーソナルアシスタント青空が就労継続支援B型事業所「メイド・イン・青空」を設立。
自然栽培による作物の栽培・収穫を始めました。
佐伯さんは、自身のお子さんが脳性マヒで生まれたことをきっかけに障がい者福祉の仕事をするようになり、「奇跡のリンゴ」を栽培した木村秋則さんの影響を受けて自然栽培に取り組み始め、育った作物を販売することによって障がい者の賃金向上にも成功しました。
佐伯さんは他の障がい者施設にも自費で指導しており、その取り組みが評価され、ヤマト福祉財団からも支援を受けられるようになりました。
2015年4月には全国の自然栽培を障がい者施設がひとつになって活動する「自然栽培パーティ」を発足。
障がい者が農業に取り組む活動として障がい者にマッチした仕事づくりに挑戦しています。
日本には耕作放棄地が40万ヘクタールあると言われていますが、自然栽培パーティではそのうちの1万ヘクタールを障がい者農業でよみがえらせようという目標を立てています。
障がい者の力でニッポンの農業を元気にする。自然の力で育った野菜や作物や米で、ニッポンを健康にする。そういった素晴らしい目標にむかって農業に取り組んでいる姿勢に共感し、サポートする企業や個人が徐々に増えてきています。
障がい者メディア「コトノネ」も応援!
「自然栽培パーティ」の取り組みに賛同してパッケージ商品を企画・販売しているのが、障がい者メディアとして季刊誌「コトノネ」を発刊している株式会社はたらくよろこびデザイン室です。
日本でも数少ない障がい者メディアを発刊している同社は、就労継続支援A型事業所全国協議会(全Aネット)の活動を支援しており、その一環として自然栽培パーティで作られるお米のセット販売を開始しました。
今年登場した「自然栽培パーティ米 詰め合わせ『俺たちの米だぞ』」は、それぞれの産地が示されたパッケージに3合ずつのお米が詰められていて、各地のお米を少しずつ食べ比べできるようになっています。
人の手をかけて心を込めて作られたお米は、どの産地のものもおいしくお米を食べることの幸せを感じられるものばかりでした。
お米は日本人の心。それを育てる人の心も含めて最後の一粒まできちんと食べることが、子どもたちも含めたニッポンの食育につながるのではないかと思います。
全国に広がる「自然栽培パーティ」の取り組みは、これからの農業のあり方や障がい者雇用の職域拡大という意味でも注目の取り組みです。
【参考】
障がい者の新しい雇用スタイルとして農業が注目されています。 「自然栽培パーティ」の取組みは、障がい者にマッチした仕事づくりに挑戦している点や 障がい者の雇用を広げようとしている点が興味深いです。 日本の農業を障がい者の力で元気にするという素敵な取り組みだと感じました。 こうした取組みから、障がい者が生き生きと働ける社会につながっていくとうれしいです。