2.英国のスポーツ・フォー・オール政策

パラリンピック発祥の地として知られる英国で、昨年8から9月に開催されたロンドンパラリンピックの成功は記憶に新しいと思います。しかし、そうした華やかなイメージとは異なり英国の障がい者のスポーツがスポーツとして認められるまでには多くの戦いがありました。

1940年代より、ロンドンのストークマンデビル病院を中心に発展した脊髄損傷者のスポーツは、世界の障がい者スポーツ関係者に勇気を与えました。一方で、英国では脊髄損傷者以外の人は障がい者スポーツから排除されるといった事象も1980年代まで見られました。

英国で障がい者のスポーツが大きく動き出したのは、脊髄損傷者に偏って推進される当時の障がい者スポーツの状況に対する問題点を示唆した「Building on Ability」報告書(注)が発刊された1989年以降でした。この報告書は、1993年の政策文書「障害者とスポーツ:政策と最新行動計画(People with Disabilities and Sport : Policy and Current / Planned Action)」が示した、「スポーツ界(競技団体)は障がい者のスポーツをスポーツとして推進すべき」との政策方針に多大なる影響を及ぼします。そして1995年に施行された障がい者差別禁止法により、障がい者がスポーツ活動に参加する際に受けるであろう差別も全面的に禁止されました。 2010年、障がい、ジェンダー(性別)、人種を超え、すべての人々はみな平等であるとする「平等法」が施行されました。この法の考え方はスポーツにも適用されスポーツ医科学研究所の利用、競技選手奨学金といった競技スポーツ領域から、地域スポーツ推進に至るまで、障がい者のスポーツ振興に広く影響を及ぼしています。

ロンドンパラリンピック閉幕後にイングランド障がい者スポーツ協会が実施した、パラリンピックのレガシー(パラリンピック開催がもたらしたハード・ソフト両面の遺産)に関する調査では、パラリンピックは障がい者に対する人々の意識を変えるに大きな効果があったと示しています。スポーツはみんなのものを実現してきた英国。その象徴が2012年のロンドンパラリンピックでした。

(注)「Building on Ability」は、脊髄損傷者以外の障がい種別の人々によりまとめられた報告書です。

写真:田中 暢子/たなか のぶこ先生
St George’s Parkは、2012年10月にイングランド中部に開所したサッカーのナショナルトレーニングセンター(医科学研究所併設)である。プレミアリーグで活躍する選手だけでなく、アマチュア選手も、 またパラリンピック選手(車いす選手)も利用できる。

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