障がい者自身が障がい者の役を演じる世界へ-part2-

ケイプランニング代表の国枝さんにプロダクション設立の経緯から今後の展望についてお話を伺いました。

知的障がいのあるお子さんを持つ親御さんを元気にしたい

写真:国枝さんと聞き手が話し合っている様子 聞き手: 先ほどレッスン風景を見学させてもらい、お子様のすばらしい目の輝き、楽しそうな笑顔、いきいきしている様子が印象に残っています。国枝さんがこの事務所を設立されたきっかけを教えてください。

国枝さん: 2007年に上映された、「筆子・その愛 -天使のピアノ-」という山田火砂子監督の映画にプロデューサーとして関わったことがきっかけです。(現代ぷろだくしょん製作)
日本で初めて知的障がい者施設「滝乃川学園」を創設した石井亮一・筆子夫妻の実話に伴うお話で、主演が常盤貴子さん市川笑也さんのお二人でした。その映画にたくさんの知的障がいのあるお子さんが出演したことが切っ掛けで、日本にはまだなかった障がいのある子どもたち向けのタレント事務所を始めたいと思いました。

聞き手: 国枝さんは、これまで知的障がいのあるお子さんと関わりなどあったのでしょうか。

国枝さん: 私の母は足が不自由で身体障がいですが、知的障がいのある方と接したことはありません。
正直どう扱っていいかわからず、間違った対応をしてはいけないと思い恐怖感みたいなものがありました。ところが、そう思っていたのは私だけではなく、総勢50名くらいいたスタッフ全員が同じ気持ちだったのです。

聞き手: それではみなさんで何か工夫されたりしたのですか?

国枝さん: チーフ助監督と話をしたときに、出演者で交流会を開こうと話しが出て実行したのです。ただ交流するだけでなく、出演する障がい児の保護者にも協力いただき、子どもたちの障がいについて理解できるような企画を考えました。
例えば、物がつかみにくいということをわかってもらえるように軍手をつけてお箸を使うなど、ゲーム大会のような交流会になりました。子どもたちのことを知る良い機会だったと思います。

聞き手: 知的障がいのあるお子さんたちと接していく中でも印象的だったことはありましたか?

国枝さん: そうですね。毎日子どもたちと過ごしていると、かわいくて仕方がありませんでした。本当にピュアなんですよ。その中で、たくさんのお母さんたちに、出産や子育てについてお話を伺ったことでしょうか。
「出産の喜びの後に障がいについて告知された時のこと」「日本のケアやサポートに欠ける医療事情」とか、多くの医者には告知の方法に問題が有り母親たちはどん底に突き落とされるわけです。
映画を制作するために、福祉という言葉もまだ無いような明治時代から迫害されてきた人々のことをいろいろ学ぶ中で、今この時代の保護者の人たちの現実を知ることによって、日本はすごく遅れているなと感じました。

聞き手: どういうところでそう感じるのでしょう。

国枝さん: 特に映画業界でいうと、海外では、カンヌ映画祭でダウン症の俳優さんが最優秀男優賞を受賞したことを知り、知的障がいの有る俳優さんの存在に驚きました。
日本ではないことですよね。私たちの業界で何かできることはないだろうかと考えました。この活動の立ち上げメンバーでもあるお母さんは、お子さんに障がいがあると聞かされ絶望のふちにいたときに、ベルギー・フランス合作の「八日目」という映画に、ダウン症で素晴らしい俳優さんが出演していることを知って彼女は立ち直ったのです。
ですから私たちが同じように、子供たちをタレントとか芸能人に育てることによって、お母さんたちに少しでも勇気や元気を与えられたらいいなと思っています。

メディアを通して伝えたいこと

聞き手: 事務所を始めるにあたって色々準備などされたと思います。まず、どんなことをされたのですか?

写真:国枝さんが笑顔でインタビューに答えている様子 国枝さん: 海外の状況をこの目で確かめたくてロスアンゼルスに飛びました。以前「筆子」の映画をロサンゼルスで上映するときに手伝ってくださった知人にお願いして障がいのある人専門のプロダクションの視察をいたしました。
三箇所ほど視察したのですが。衝撃的でした。きちんとレッスンの環境もできていて、ありとあらゆるレッスンをしていました。
やっぱりアメリカだなと思いました。「ER」という医療関係のドラマの300回記念番組を拝見したとき、有名な俳優さんのピーターフォンダさんと障がいのある俳優さんが難しいシーンを見事に演じているのを見て、涙が止まりませんでした。
戻ってすぐスタートしようという決め手になりました。

聞き手: アメリカは一歩も二歩も先を進んでいるのですね。どのようなことに苦労しましたか?

国枝さん: どういう形態でやろうかということをすごく悩みました。もともと小さな企画会社なので、NPOを別に作ろうとか、福祉という形を取ろうとか、いろいろ考えたのです。
その方が支援を受けやすいと思いました。ただ、それだと何も変わらないような気がしたのです。
障がいがあるとどうしても。常にしてもらう側、そうではなくて彼らができることをちゃんとして、正当な報酬をもらって税金を払う、そこまで目指したいという希望がありました。
そこで、会社の中の一部として芸能部SPクラスというものを作りました。その代わり、支援を受けない立場でスタートしたので、経営は大変でした。
この活動だけは失いたくないので、みんな必死でやっています。その頑張ろうというパワーは、お母さんたちの後ろ盾があるからできるのと、どんなに大変なことがあっても子どもたちの顔を見ると、元気になってしまうのです(笑)。

聞き手: 子どもの笑顔ってすごいですよね。 始められてから反響や手ごたえなどはいかがでしょう。

国枝さん: 最初は知人の協力などでのお仕事がポツリポツリでしたが、2010年4月にはTBS系列の「金スマ」から再現シーンでの出演依頼があって、ダウン症の女の子が演技をしました。
一般のみなさんお芝居はできないと思っている人が多いのです。インターネット上には「いじめて泣かせるなんてひどい」という書き込みなども見られました。
きっと露出することが少ないからでしょうね。その子は他の役者さんと同じように、普通に演技していたのですが演技がリアルでそうは見えなかったのでしょう。
今年三年目ですがTBS系列のドラマ「生まれる」から出演依頼のお話があって、私は飛び上って喜びました。
ゴールデンタイムの連続ドラマですよ。やっと少しずつですが形になってきたと感じました。

聞き手: 私もテレビ見ました。とても自然に演技されていましたよね。

国枝さん: テーマは重かったですけれども、久々に良い社会派のドラマだったと思います。第5話は、うちの高井萌生くんの知的障がいという部分が中心のシナリオでした。
その演技がとても良かったということで、脚本家の鈴木おさむさんが、7話以外の最終話まで萌生くんを入れてくださったのです。 最後のCDプレゼントまで担当することができ、本当に特別な扱いになったと思います。
一緒に現場に入ってみて、初めてわかるあの子達のかわいさとかピュアなところというか、それをみなさんが知って、お相手してもらったことはうれしく思いました。

聞き手: 良い演技ができるような環境づくりなどされたのでしょうか。

国枝さん: ありがたかったのは、スタッフの方々が萌生くんの自宅へ行って、雰囲気などを確認していただいたことです。
放送された萌生くんの家のシーンは実際に描いた絵がはってあったりと自宅の部屋に近づけてくださいました。こちらからお願いしたものではないですけれども、金子文紀監督を始めとするスタッフの皆さんは萌生くんが芝居をやりやすいように、いろいろと工夫してくださいました。
鈴木おさむさんのシナリオの中にも、萌生くんがいつも使っている口癖みたいなものをセリフに入れてもらったり、苦手な言い回しや滑舌の問題とかも言いやすいように変えてもらったりと、すごく好意的でした。

子どもたちの可能性を広げたい

聞き手: 国枝さんは子どもたちと接することが多いと思うのですが、気をつけていることとか、なにか自分で決めていることとかありますか?

国枝さん: あります。気を使いすぎると逆に差別のようになるから、普通に接していいと思うようになりました。
わからないころは変に気を使っていましたが、今はだめなときはだめとはっきり言いますし、親がいてもあまり気を使わずに接するようにしています。

聞き手: 事務所を経営していく中で変化したことはありますか?

国枝さん: そうですね。長いスパンでの目標ができたというのがあります。最初、自分がこの業界にいるので少し思い上がったところがありました。
広告とかCMに普段関わっているので、そこに営業していけば仕事が簡単に決まると思っていたのです。
ところが、そううまくはいきませんでした。丁寧に断られてしまうのです。まだこの子達を広告に起用するというイメージはないということがわかりました。
なので、映画やドラマにたくさん出演させると、広告効果がわかってもらえると思ったのです。

聞き手: 最後に、今後の夢について教えてください。

国枝さん: 今一番すぐにでも形にしたいのは、レッスンスタジオや、日常から障がいの有る皆さんと関われるような箱がほしいです。
現在は子どもさんたちだけですが成人した方にもレッスンしたり、保護者の方たちが疲れているときに少し預かってあげられるようなスペースがほしいなとか、色々と自分の夢もあります。
私の知り合いで一軒家を施設にして、子どもたちを預かっている人がいます。いつも子どもたちと一緒にいて、誰に気兼ねすることもありません。 今のお稽古スペースは借りていますので、下の階にドタバタと音が響かないようにとか気を遣います。
子どもたちが自由に伸び伸びとレッスンできるような場所を持ちたいと思っています。

聞き手: これからもその夢に向かって頑張ってください。どうもありがとうございました。

イラスト:編集後記

今回、取材を通してたくさんの子どもたちの笑顔を見ることができました。とても楽しそうにレッスンを受けていたことを感じます。国枝さんにお話を伺った中で「障がい者自身が障がい者の役を演じる」というスタンスはとても印象に残りました。このような事務所があることを、より多くの方に知っていただければと思います。今後の事務所の活躍に期待したいです。

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