2018年04月24日掲載
読者のみなさんは、「聴導犬」をご存じでしょうか。
耳が聞こえない方の生活をサポートする聴導犬、2002年に身体障害者補助犬法(注)が施行されていますが、その中でも頭数が少なく全国で74頭しかいません。その内の3頭が日本聴導犬推進協会で誕生しています。
そこで今回、聴導犬の育成を行なっている公益社団法人日本聴導犬推進協会の秋葉さんにお話を伺いました。なかなか聞くことのできない話が盛りだくさん。ぜひ、ご覧ください。
(注)聴導犬・介助犬・盲導犬を「身体障害者補助犬」として位置づけ、補助犬を同伴する障がい者の施設などの利用の円滑化と良質な補助犬育成を目的として施行されました。
聴導犬とは
耳が聞こえない方に音が鳴っていることを知らせて、生活をサポートします。
音が聞こえないことからくる不安やストレスを軽減し、耳が聞こえない方の快適で安全な生活を支えるのが聴導犬の役目です。
【聴導犬の主な役割】
- 自動車の警笛音
- 自転車の走行音
- 火災報知機や非常ベルの警報音
- インターフォン
- 携帯電話のメール着信音
- 赤ちゃんの泣き声 など
ユーザへの音の伝え方
音の知らせ方に関しては各育成事業所によって異なります。
以下、公益社団法人日本聴導犬推進協会での伝え方の一例です。
音が鳴ると、犬が音のなるものを探しに行きます。音の場所がわかれば、手や鼻でタッチして、どこかで音が鳴っていることをユーザに知らせます。
その後、ユーザが「どこ?」と聞いてあげると、犬が音の鳴っている場所まで行きます。音が鳴っているものを見ているので、ユーザも犬の後をついていけば何から音が鳴っているのかがわかります。
後ろから来る車や自転車の音に関しては、犬が振り返って音の鳴る方向を見ていますので、ユーザも犬の視線をたどれば、音の鳴るものが分かります。
また、目覚まし時計の音は体にタッチしたり、布団をはいだりして、ユーザが起きるまで起こし続けてくれます。
基本的にこのような動きで音を知らせてくれます。
聴導犬ユーザの声
聴導犬が音を知らせてくれるという安心感が、音を忘れられる生活をくれました。
聴導犬と一緒に暮らす前は、いろいろなものに注意を向けながら、気を張って過ごしていたけど、今では生活に余裕が生まれています。
聴導犬を広げる活動との出会い
聞き手: 14年前に「聴導犬・美音(みお)がくれたもの」を読んで聴導犬を知りました。現在日本に聴導犬はどのくらいるのでしょうか?
秋葉さん: 聴導犬の数は、毎年厚生労働省からデータが発表されるのですが、現在全国に74頭です。美音はうちの協会から誕生した聴導犬ですよ。
聞き手:
美音はここで誕生したのですか!それにしても、聴導犬の数は少ないですね。
聴導犬の育成はどのような経緯で始まったのでしょうか。
秋葉さん:
日本聴導犬推進協会は、聴導犬の歴史に重なる部分が多いです。
日本で最初に聴導犬の育成が始まったのが、1981年です。警察犬をメインに育成している「オールドックセンター」の一部で聴導犬部門のような形で育成していました。
しかし、日本で聴導犬を増やしていくために法人化し、聴導犬普及協会となりました。当時はNPO法人でしたがどんどん発展して行き、現在は公益社団法人となっています。
この35年間、聴導犬とともにこの協会も広がっていったと言って良いのではないでしょうか。
聞き手: 秋葉さんがこちらの協会で働くようになったきっかけはなんですか?
秋葉さん:
私はこの仕事を始めて9年目になります。
前職は広告の制作会社で、そのころ住んでいた家の近くに、盲導犬の育成施設があり、よく訓練している姿を見かけていました。
福祉に関わる仕事をしたいと強く思ってたこともあり、印象に残っていたのです。
聴導犬はあまり知られていないということもあり、前職の広告という経験を活かして、広げていきたいと思い転職しました。
それまで、障がいのこと補助犬のことなど何もわかっていませんでしたので、一から勉強を始めて、毎日が大変な日々でしたが、知れば知るほど奥が深いんですよね。
今、聴導犬を知ってもらうための広報活動を主にしていますが、色々な場所に行ってお話しをさせていただいています。
聴覚障がい者の方が普段どれほど不便さや不安などを抱えて生活しているか身をもって理解することができ、その不安を解消する聴導犬の育成に携わるという、なかなかできない良い経験をさせてもらっているので、この仕事をして良かったと強く思います。
聴導犬を育てるための工夫
聞き手: 聴導犬を育成する施設は全国にどのぐらいあり、育成する犬種は決まっていますか?
秋葉さん:
聴導犬になるためには育成が必要で、全国に20か所の訓練所があります。
みなさんがよくご存じの盲導犬の場合、ラブラドールなど犬種が決まっていますが、聴導犬は雑種が多いです。
そのため聴導犬の場合は、保健所などから保護して育成することが多いです。
犬の大きさについては、各協会の考え方に違いがあり、家の中で飼いやすいということで小型犬の場合があります。
しかし、当協会では外出することなどを考え小型犬だと体力的に負担が大きいため中型犬以上を聴導犬にしています。
聞き手: 訓練は難しいのでしょうか?
秋葉さん:
訓練として、まずは音自体に興味を持つトレーニングを行い、その後音が鳴ったら知らせるように2から3種類ずつ徐々に覚えるように増やしていきます。引退するころには10種類から30種類の音を知らせてくれるようになります。
聴導犬になる・ならないの差は、頭がいい・悪いではなく、聴導犬としての生活が、この子の性格に合うかどうか、幸せと思えるかどうかという判断が重要です。
聞き手: 訓練をする中で一番苦労することはどのようなことですか?
秋葉さん:
いろいろありますが、まず最初に苦労するのがトイレのトレーニングですね。
子犬は、尿道括約筋という、尿を我慢するための筋力がまだ育っていないので、頻繁にトイレに行く必要があります。
犬にもよりますがだいたい2時間おきにペットシートの上でトイレをさせます。
夜中も2時間おきに起きてトイレをさせて、という繰り返しを最初の段階からやらないといけません。きちんと子犬のときに学習して、失敗経験をさせず成功経験を重ねていくことが重要です。
犬もそれぞれ性格が違っていたり考えていることが違うので、それらをきっちりとこちらが読みとり、その子に合わせたトレーニングをしていく必要があります。これは、知識、技術、経験がないとできないことだと思いますね。
聴導犬と共に安心して過ごせるような社会へ
聞き手: 聴導犬と一緒に生活したいというユーザは多いのでしょうか?
秋葉さん:
実は、現在希望しているユーザはそこまで多いわけではないです。
その理由として、聴導犬を連れていることで聴覚障がい者だということが分かってもらえるメリットはありますが、一方では、目立つため出かける度に注目を集めることとなり居心地がわるくなってしまうと言う声も聞きます。
聞き手: なるほど、今はそれほど多いわけではないのですね。聴覚障がい者であれば誰もが聴導犬と一緒に生活できるのでしょうか?
秋葉さん:
障害者手帳を持っていることが最低限の条件で、等級は関係なく、希望者が聴導犬と一緒であれば良い生活ができるという判断がポイントです。
希望される場合は、まず当協会のような訓練施設か行政などに直接問い合わせていただきます。
その後、何度か面談して生活環境や聴導犬への考え方について話を聞いて訓練士、社会福祉士などの専門的な視点も取り入れて、聴導犬が必要かを判断します。
そして、聴導犬のコントロール方法や生活環境などをお伝えして、聴導犬の候補となる犬と生活をしてもらい関係を作ってもらいます。
すぐどうぞというわけではなく、半年くらいかけて、ユーザとマッチングしています。
聴導犬と信頼を培った上で、本当に必要としている方に、お渡ししていきたいですね。
聞き手: 最後に秋葉さんの想いをお願いします。
秋葉さん:
聴導犬はまだまだ数も少なく、知っている方も少ないのが現状です。こういった現状ゆえに、施設での受け入れ拒否など様々な問題が起こっています。
私達の活動はこういった社会課題の解決がテーマです。聴導犬の頭数が増えたり、聴導犬を知っている方が増えるというのは、共生社会に向けて変わっていくことだと思っています。
しかしながら、ただ数が増える、ただ名前だけを知ってもらうでは意味がありません。聴導犬を通して、障がい者の方々や動物たちを取り巻く環境を、改めて考えて直していただけるような活動を行っています。
聴覚障がい者の方が安心して暮らせる社会、動物たちにとって優しい社会を創っていくことが、私達が活動していく上での大きな目標です。聴導犬があたりまえの社会を目指して、一緒にご協力していただけたら嬉しいです。
聞き手: 今後、聴導犬がより社会に広がることに期待しています。今回はどうもありがとうございました。