- 猪狩(いがり)ともか
1991年、埼玉県生まれ/アイドルグループ「仮面女子」「スチームガールズ」のメンバーとして活躍中。アリスプロジェクト所属。
2018年4月、強風で倒れた看板の下敷きになり脊髄損傷、両下肢まひに。5月ブログでケガの様子や車いす生活になることなどを報告。8月「仮面女子ライブ」のフィナーレ出演から活動を再開している。特技は料理、管理栄養士の資格を持つ。
- ポジティブにアイドル活動を続けていきたい
- ライブで歌ってステップを踏んで、アイドルとして活躍していた猪狩ともかさん。看板の下敷きになるという突然の事故に遭い、車いす生活を余儀なくされた。ライブに戻りたいとの強い思いでリハビリをがんばり、その姿に家族やメンバー、事務所が支援に動き、みごとに車いすのアイドルとして「仮面女子」への復活を果たしました。ファンの声援を支えにポジティブに未来へ向かい続ける、猪狩さんの素顔に迫ります。
突然の事故で車いすになったことも予想外でしたが、
その後にたくさんの声援をもらったり、新しい仕事に出会ったり、
うれしい予想外が続いています。
聞き手:猪狩さんにお会いできて、とてもうれしいです。本日はよろしくお願いします。
猪狩さん:よろしくお願いします。
聞き手:さっそくですが、アイドル活動を始めたきっかけについて教えてください。
猪狩さん:就職活動で希望する会社に入れなくて、さあ、どうしようと考えました。そのときに思い浮かんだのが、小学生から「モーニング娘。」さんが好きだったこと。私アイドルになりたかったんだと思ったんです。それでオーディションを受けたので、スタートは22歳と、けっこう遅いんです。
聞き手:「仮面女子」加入後、あまり経たないうちに事故に遭ったのですね。
猪狩さん:1年ちょっとです。事故に遭ったときは意識がずっとあって周りの人の話し声から状況が伝わってきました。意識がなくなったほうが楽だなあと思いながら、救急車で搬送されたんです。
聞き手:損傷はどの部分ですか。
猪狩さん:胸椎の12番で、ほぼ腰椎です。おへそのあたりですね。
聞き手:私も胸椎です。歩けなくなるかもしれないと聞いたのはいつですか。
猪狩さん:事故の翌日に医師から怪我について「足の感覚がない状態です」と言われました。それがイコール車いす生活になるとは思ってもいなかったです。2週間くらい経ったときに家族に「治らないの?」と聞いて、はじめて知りました。
聞き手:歩けないと知ったとき、どんなことを思いましたか。
猪狩さん:ライブできない!……でしたね。今までみたいに踊れなくなる、ライブできない私を必要としてもらえるのか、と思ったんです。でも、父から「車いすになってもできることはいっぱいある。事務所も活動を支えていくと言っている」と聞いて悲観的にはならなかったですね。ショックはショックでしたけど。
聞き手:強いですね。仕事を続けられると思いましたか。
猪狩さん:続けたいと思いましたが、予想もつかなかったですね。事務所の人が会いに来てくれて、「とりあえず動けるんだ、じゃあ何でもできるよ、福祉車両を買おう、みんなで出かけよう」と。それで入院中に外出届を出して、メンバーとご飯を食べに行ったり、ショッピングモールやブルーベリー狩りに行ったりしました。それほど深く考えずに、とりあえずやってみて、できなかったらその都度解決していけばいいかなって。
聞き手:猪狩さんの個性ですかね、ポジティブでみんなを巻き込んでしまうという。
猪狩さん:みんなが協力してくれますし、ファンの方の声援に背中を押されました。ブログで事故のこと、今後の活動のこととかを書いたら、読み切れないほどの応援メッセージが届きました。予想をはるかに超える出来事でした。そして、今までになかったようなお仕事をいただく機会が増えました。事故は予期せぬ出来事でしたが、その後も予期せぬことがいっぱい続いてます。
聞き手:仕事ではメンバーを含む関係者に「障がい」について理解してもらわないと活動できないと思うのですが。
猪狩さん:普通にいつも通りで、特別意識はしなかったと思います。例えば段差を越えなくてはいけないときには、車いすの前輪を持ってくれるように頼んだり、車いすのまま着替えなければいけない場合は手伝いをお願いしたり。こういうときはこうしてほしいんだなということを周囲の人たちが自然と理解してくれました。
聞き手:車いすになって困った経験はありますか。
猪狩さん:仕事で遠征する際、バリアフリー環境が整ったホテルを用意してもらえるんですが、そのような部屋でも介助が必要な場合があります。ベッドやユニットバスの仕様がちょっとでも違うと不便ですね。
聞き手:車いすから落ちてしまったことは?
猪狩さん:入院中に1回あったんです、すごいショックでした。床にちょっとしたでっぱりがあって、それに気づかずに進んでいったら引っかかってそのまま前に落ちました。痛いより恥ずかしかった(笑)。
聞き手:床トラ(床からトランス:床から車いすに移動すること)はできますか。また、普段どんなトレーニングをされていますか。
猪狩さん:床トラができるかどうかは、腕の力が必要ですね。入院中に横トラができないために入院期間が延びてしまいました。それができるようになったので床トラも練習したんですが、一人でできるようにはならなかったですね。今も週に1、2回、病院へ行って、足を動かしたり、手でこぐマシーンでトレーニングをしているので、腕力付いたなって感じることはありますね。これからもポジティブに、体を動かすことにチャレンジしていきたいです。
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- インタビュアー 髙橋 豪
- 2016年、NTTクラルティに入社。ポータルサイト「ゆうゆうゆう」の編集員、障がい理解研修等の講師を務める。